グレン手術不同意に関しての文章(病院にむけて)

<これまでの経過>

息子=グレン、フォンタン循環目指す心疾患で生まれる(胎児期からエコーで方針決定)

生後7日目にカテーテル治療でガイドワイヤーが心臓の壁を貫き、長い蘇生で、重い低酸素性虚血性脳症(脳萎縮)に。

その後肝炎で死にかけ、早期のグレン手術検討→リスクが高く不同意

その後肝炎が落ち着き、手術リスクも比較的高くない状態になった。

手術適応の時期も満たした(四ヶ月過ぎた)ため、再度病院からグレン手術の提案があった。

 

以下は病院面談時に提出し、母親(わたし)が読み上げた文章になります。↓

 

手術同意はリスクに同意することでもありますが、私たちは、同意がもたらす治療リスクとは一体何であるかを過去既に経験しました。


カテーテル治療において稀といわれる心臓穿孔が病院実施三度目にして起きたことや、長い時間蘇生され、繋いだエクモも20分以上停止したこと、何よりその過程で既に開胸され傷つき果ててしまった○○(=息子名前)を見て、家族として不条理を感じ、受け止めきれない出来事を、起きてしまったこととしてただ享受しました。
私たちが同意した治療によりもたらされた彼の不可逆なダメージや傷つき、不幸は、人生一度きりであるべきで、本当に十分だという思いがありました。


疾患を持って産まれた以上、治療リスクと対峙せざるを得ないのは当然であり、医療にアプローチしていただけるのは贅沢で幸せで感謝することであり、その根本は疑いようがありません。
その反面で、医療的介入により本来単純な生き死にの流れが複雑化し、介入がない場合よりずっと残酷な状態に陥ることがあるとも実感しました。
心臓穿孔により起きたこと自体が残酷に感じたのはもちろん、蘇生後、脳の状態の確証がないまま、肉体の治療を進めた場面では「もし脳が想定よりやられていて、ほとんど肉体だけ死線から引き戻してしまったとしたら、それ自体が取り返しのつかないことだ」と思いました。単に自然のまま亡くしてしまうより恐ろしく、摂理に背き、○○の身体を無碍に扱ってしまうような抵抗感が強くありました。


実際そうはならず、皆さんに尽力していただいた結果、今の息子の小康状態があり、感謝は絶えません。しかし、治療・手術リスクが時に耐えがたい理不尽な状況をもたらすということをどう解釈し、判断するかということに関して親として考え続ける日々でした。


一方で彼に生を謳歌してほしいという親として当たり前の切実な思いがあります。○○は産まれてひと目見た時からとても可愛らしい子で、それは今も当たり前に変わらず特別に可愛らしい存在です。生きているだけでこんなに可愛らしいのだというのはつき抜けて感じるもので、各実家は「みんなで育てていこう」と協力的でありますし、どうであれ彼が彼なりの人生を歩み、私たちが支えていけるのであればとにかくそれが一番良かった。
脳症のことだけ考えれば、低酸素性虚血性脳症の子は出産時の新生児仮死が多く、急性期過ぎてしまえば障害はありつつも順調に回復し、家でずっと生活できる子も多いと思います。


しかし○○は問題の根幹に心疾患があり、それに対処する開胸手術を検討しなくてはならず、思っていたより早々にその時期が来てしまいました。
本人にしてみれば、なにが起こったとしても「自分に何が起きたか」を解釈できる日は来ないかもしれません。だからこそ「やってしまえばいいじゃないか」と言えるかもしれませんが、その理屈でどうとでも身体的に介入できてしまうことになります。だからこそ、親が経緯と状況を見て考える必要があると思っています。


本来、手術するかしないかの二択しかない現実は、親にとっては暴力的なことであり、どちらを選んでも引き裂かれるものです。手術するという判断の方が真っ当に見えるという人もいるかもしれませんが、カテーテル治療の時だって、リスクや侵襲性からして一番真っ当らしい選択であったものの、それが不幸な展開をしました。私たちにとって、どういう判断が息子を守れるかという判断基準は、もはやそういった真っ当らしさにはないということは申し添えたいです。


治療の客観的な展望を話していただいたことや、限られた中で面会時間を増やしていただいたことで、夫婦共に涙しながら悩んできました。お互い手術しようと言うこともあり、結論ありきではないよう努めてきたし、実際そうでした。


祖父母に治療方針の相談はしているか質問されたことがありますが、祖父母はそれぞれに並々ならぬ思いがあるだろうし、私たち夫婦と合わせて合計6人の意見を集約できるはずもないため、状況報告し都度話すことはありますが、治療方針自体に関して事前相談したり、言及してもらうことはありませんでした。祖父母は孫を深く思いつつも私たち夫婦の心配を優先とするムードがあるとも感じたため、治療判断の要素としませんでした。


このような経過のもと、今回先生方からいただいたご提案を踏まえて、夫婦としてはグレン手術に同意しないという意向です。
以上のことは胸にメスを入れて手術する上でのリスクを負えないという話であり、彼の生命を維持しようとする以上、あらゆるところに大なり小なりのリスクがあることは承知しています。彼が今後厳しい状況になっていく中で、どういう処置を行うか・行わないかということは、今後も先生方との話し合いのもと考えていきたいと思っています。


先生方、看護師の皆さんに常に尽力いただき、手術するにも良い条件を揃えていただいたにも関わらず、こういった回答になることは申し訳なく思いますが、尊重していただけると有難いです。


限られた時間の中で、○○が少しでもできることを増やしていったり、リハビリをしてもらったり遊んでもらったりすることは、本人が穏やかに可能な限り、一緒に楽しんでいきたいです。体調や状況が厳しい日は、ただ寄り添っていきたいと思っています。